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パヴェル・レンチィン Pavel Renčín「The Dragon Star」『Dreams From Beyond』(ユリエ・ノヴァーコヴァ Julie Novakova編、2016年)所収

 先日、阿部賢一先生のツイートから『Dreams From Beyond』という題でチェコのSF(と云っても科学小説ではなく、スペキュレイティヴ・フィクション)のアンソロジーの英訳版が公開されていると知って、さっそくぼくもpdfを入手し、取り敢えず頭から順に読んでいる。そして、この間、ようやく巻頭一作目の「The Dragon Star」を読み卒えた。というより、日本語に訳しながら読んでいたのだけれど、つい先程邦訳作業を完了したのである(いやはや、疲れました)。

 で、肝心の内容については、何やら羊飼の若者に神話の登場人物or生物が管理されてその生を、いや死を完う出来ずに居る。そんな折、最後の一匹となった竜がようやく死を遂げる。それまでの場面がシュタイガーの所謂「叙事的なもの」に満ちた語りで語られていく。何となく、イーザーの虚構論が頭の中でちらつくが(たぶん関係ない)、竜が空を上り詰めていってそののち墜落したりするエピソードがあり、ここで宮沢賢治の「よだかの星」を明瞭に重ねることが出来る。レンチィンの物語においてもまた、神話上の者は死を遂げ忘れ去られることで星になるのだが、ニンフやら何やらが出て来て羊飼にエアリアルを解放して星を与えるように乞うところがある。しかし、その願い出は聞き入れて貰えないまま終わる。竜の上昇と下降はダニロ・キシュの「魔術師シモン」やニーチェの「ツァラトゥストラ」を連想させるが、先述の通り竜は美事?にその死を死ぬわけだが、最後に空を飛び都市の高楼のただなかで末期の上昇を開始する前に一人の少年を喰い殺している。この少年はほとんど生贄として物語に配されており、母親の云いつけを破ってゴミ山に出かけて行って片足を怪我している折に竜殺しの老人と出会い、その後、竜の潜む古びた倉庫へと赴くことになる。この竜殺しの老人も年齢のせいか何なのか足取りが覚束ないという描写がある。そして、奇妙にも竜もまた片足が不具なのだ。この辺りは神話の要素としては重要だろう。また、神話の対立構造に欠かせない竜殺しさえ老いぼれの爺さんというのが悲しいところ。

 時代背景については余りはっきりとした記述はなく、もしかすると神話の時代から現代まで、或いは荒廃した近未来までの時代が曖昧なままに描かれているのかもしれない。物語は第九章の語り手の純粋な語りである第九章を除き、八つのエピソードに拠って構成されている。それと、ちょっとWikipediaを見た限りでは、「ドラゴンスレイヤー」もののアンソロジーに複数の作品が収められており、もしかしたら連作だったりするのかもしれない。

 

 ところで、著者情報等(以下、pdf版から)。この「Dračí hvězda」(The Dragon Star)はアンソロジー『Drakobijci』(屠竜者)第3巻(ミハエル・ブロネク編、2001年)に収録されたもので、同書はDragonslayers fantasy賞の候補作をまとめたものだそう。ちなみに、「The Dragon Star」は受賞作。2004年には「Pevnost」誌に掲載され『Legendy: Draci』(竜の伝説集)(ミハエル・ブロネク編、2010年)に収められている。2015年にはFantastica.roにルーマニア語訳が公開されているが、今回(pdf版)が初の英訳での刊行。

 

 著者について

 パヴェル・レンチィン(1977~)は破壊的な有力者としてチェコの文学界に参入した。彼は短篇「Stvořitel」(創造者)で1999年にデビューするとそれから幾つかの文学賞を受賞している。そして、彼の名はスペキュレイティヴ・フィクションのアンソロジーに常に並んでいる。その作品のほとんどがアーバン・ファンタジー、マジック・リアリズムやホラーといったジャンルに収まる。彼の最初の長編『Nepohádka』(非妖精譚)は2004年に出版されており、また『Jméno korábu』(箱舟の名前)が2007年に出ている。一年後(2008年)、彼はチェコ共和国の最初期のオンライン小説の一つ『Labyrint』(迷宮)(Kosmas)を書き上げる(紙の書籍は2010年に出版)。ちなみに同作は読者と協力して書くという筒井御大の『朝のガスパール』を彷彿とさせる手法で書かれたとか。彼の『Městské války』(都市戦争)三部作の第一部(Kosmas)を刊行している。同書はAkademie SFFH(Science Fiction, Fantasy, Horror)賞の候補となったほかAeronautilus賞を受賞している。第二部(Kosmas)と第三部(Kosmas)はそれぞれ2009年と2011年に出版されている。レンチィンの短篇集『Beton, kosti a sny』(コンクリートと骨と夢)(Kosmas)が2009年に出ている。彼の最近の勝れた著作ボヘミア世界が舞台のホラー小説『Vězněná』(拘禁)(Kosmas)であり、2015年に出版されるとAkademie SFFH賞においてベスト・チェコ・スロヴァキア・スペキュレイティヴ・フィクション賞を贈られている。

 

パヴェル・レンチィンの公式Webサイト:http://www.pavelrencin.cz/

 

pdfファイルの公開頁:https://www.julienovakova.com/dreams-from-beyond/

 

 

 ちなみにpdfファイルはEuroconというカンファレンスの活動の一環として作成されたものらしいです。未詳。

 英語も碌に出来ない上にチェコ語は判らないので悪しからず。

 

 それではまた(しばらくはこのアンソロジーの話題が続くかもしれないですが)。

 

【追記:2016.9.19】

こちらのサイト(http://yaliusat.wixsite.com/mysite-1/blank-3)にてチェコのSF作家を紹介なさっておりましたのでリンクを貼っておきます。