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イタリア文藝叢書-1『ぶどう酒色の海 Il Mare Colore Del Vino イタリア中短編小説集』(吉本奈緒子・香川真澄=編訳、イタリア文藝叢書刊行委員会、2013年)

 先日、ルネ・ウェレックとオースティン・ウォーレンの共著『文学の理論』(太田三郎=訳、筑摩書房、1954年)を読んでいたら、「蒐集→型録→編集」の順序が大事だと云うようなことが書いてあった。ぼくはこれを読んで成程と思った、これはぼくだけの課題かもしれないが、どうもこの世の中(とは云え、ぼくは滅多なことじゃ外に出ないし世間のことなぞ判りはしないが)蒐集から編集までを短絡につなげようとする風潮があるんじゃないかと、そんな風に靉靆たる心裡を明瞭に自覚出来たからだ。つまり、「型録」作りを疎かにして、無理やりに編集へと繰り出すから躓くのではないか、社会を渡るのに何もかも曖昧なままにし過ぎているのではないか。ここで大事なのは、別に世界とか存在とかが曖昧だと云っているわけでないということだ、曖昧なのは人間の思索の側だということだ。喩えて言うなら、「由良君美荒俣宏松岡正剛」(何の喩えにもなっていない)の「荒俣宏」がすっぽり脱け落ちているというわけだ。ハイデガーが云う様にDingが「蒐集」なら、「型録」とは、Sacheではないにしても、やはり文字通りのkatalogosだと惟う(ジェイムズもあらゆる事物は一つの物語を物語っているとか何とか云っていたけど)。

 それはそうと、以前から、ぼくは、大抵の人がやっているだろう、好きな作家の著作リストを作ったりしているのだけど、或る日、ディーノ・ブッツァーティのリストを作製中に「イタリア文藝叢書」なるものを発見し、勝手独り興奮していた。調べても陸に情報が出て来ない。

 それからしばらくして、つい先だってその「イタリア文藝叢書」の第1巻『ぶどう酒色の海』を手に入れたので、折角だから紹介しておこうと考えた次第。で、面倒だし、本文批評なんてやってられるか、外在性に依拠して紹介しましょう。

 

 タイトルは掲げた通り、(イタリア文藝叢書-1)『ぶどう酒色の海 Il Mare Colore Del Vino イタリア中短編小説集』。

 訳者は吉本奈緒子さんと香川真澄さんのお二人。発行所はイタリア文藝叢書刊行委員会で、住所は山口県下関市に置かれている。発行は2013年10月25日。

 それで、肝心の内容は下記の通り。

 

 

 

              [近代編]

ジョヴァンニ・ヴェルガ「夢」

マリア・メッシーナ「移りゆく“時”」

ガブリエーレ・ダンヌンツィオ「処女地」

ルイジ・ピランデッロ「山小屋」

グラツィア・デレッダ「ドリーア城の伝説」

              [現代編]

イタロ・ズヴェーヴォ「母親」

ミレーナ・ミラーニ「エレベーター」

ジョルジョ・バッサーニ「チーズの中のねずみ」

ニコラ・リージ「塑像」

アンジェロ・ガッチョーネ「至上の愛」

マリオ・トビーノ「ヴィアレッジョ沖のかれら」

ファブリツィオ・キエスーラ「出口のない美術館」

レオナルド・シャーシャ「ぶどう酒色の海」

ダーチャ・マライーニ「嵐」

ダーチャ・マライーニ「バンクォーの血」

スザンナ・タマーロ「コモド島」

 

出典データとコメント 吉本奈緒子

半島のざわめき――後書きに替えて 香川真澄

              資料編

イタリア近現代文学史略年表

収録作家出生地マップ

TESTI(原書出典)

 

 

 

 翻訳に関しては、吉本奈緒子訳(英訳からの重訳?)がヴェルガの「夢」、ズヴェーヴォ「母親」、タマーロ「コモド島」の三つ。それ以外は香川真澄訳。ところで、この訳者のお二人は一体何者?と思った向きも多いだろうから、判りえた範囲の情報を挙げていこう。

 まず、吉本奈緒子さんは巻末に附された紹介文には「1972年、山口県山口市生まれ。ボストン大学経営学部卒業後、ニューヨークで会社勤務。10年間のアメリカ生活を経て、帰国後は通訳・翻訳・英会話指導にあたる」、そして現在山口県在住で三児の母とある。

 次に、香川真澄さんは、過去に新読者社というところから『青の男たち 20世紀イタリア短編選集』を出版されている。ちなみに、収録されている作家はモラヴィアにギンズブルグにパヴェーゼヴィットリーニカルヴィーノにカッソーラにブッツァーティetc….。とまれ、この香川さん、地方紙に頻繁に取り上げられており、その一つを読むと、フィレンツェで仕事をされながらイタリア語を学んでいたよう。また、ご本人も詩を嗜んでいらして、詩集を刊行してもいる。県立図書館の頁にあった著者情報に拠ると「1959年下関市生まれ。福岡大学商学部卒業。87年にイタリア留学し、90年帰国。神戸「諷詠」同人。第6回朝日俳句新人奨励賞受賞。著書に「赤い屋根、みどりの煙突」など。」だそうです。

 それにしても、後書きから迸る情熱振りが素晴らしく、これで大手出版社から声が掛からないのは残念というか何というか。もう応援するしかない。何だったら、ぼくも山口に往ってイタリア文藝叢書刊行委員会の仕事を手伝いたいくらいだ。

 

「イタリア文学は「個」がおもしろい。/……天体に例えるなら、星座や星雲として見るのではなく、個々の星を鑑賞すべきなのだ」(p.195)

 

 さて、最後に「イタリア文藝叢書」の刊行予定リストを次に掲げておこう。

 

1. L・シャーシャ他『ぶどう酒色の海 中短編集』 (刊行済)
2. アダ・ネグリ『あけの明星』 (刊行済)
3. グラツィア・デレッダサルデーニャの花』 (刊行済)
4. ディーノ・ブッツァーティ『夜の挿話』 (刊行済)
5. ゴッフレード・パリーゼ他『イタリアエッセイ集』
6. C・コッローディ他『イタリア戯曲集』 (刊行済);『観劇のあと イタリア一幕物劇集』に改題
7. G・ダンヌンツィオ他『イタリア詞華集』
8. カルロ・カッソーラ『カッソーラ初期小品集』 (刊行済); 『商人の妻 カッソーラ初期小品集』に改題
9. C・ザヴァッティーニ他『おいしい取引き―ユーモア小説集』
10. I・カルヴィーノ他『イタリア幻想小説集』
11. 香川真澄『ルネッサンスの翼』
12. 佳永嘉士他『古代ローマ・コイン研究』

            イタリア文藝叢書続刊
13. アダ・ネグリ『いのちの調べ 詩と評伝』
14. G・ダンヌンツィオ他『イタリア童話集』
 

 

 

 国会図書館山口県図書館に寄贈本がある他、某インターネットオークションサイトで出品されているので、興味がある方は買ってはいかがかしら(本来書痴たるもの教えないのが常識だが)。ぼくも将来はチェコ語やらスロバキア語やらハンガリー語やらポーランド語やらスロヴェニア語やらルーマニア語やらを勉強して翻訳でもやってみようかなと考えているので、56億7千万年後に期待していて欲しい。

 (なんだかカルヴィーノを取り上げる日が遠退いた気がする……)