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ダリオ・トナーニ『明日は別の世界』(イタリアSF文庫:久保耕司=訳、イタリアSF友の会、2016年)

 最近、稲垣足穂を読んでいたら、次のような文句に出くわして驚いた。

 

 僕は、たとえば新しい靴墨か、おろしたての歯ブラシの感じがする文学を作ってみたい。それは又、タイトル・バックのような短篇であり、予告篇的編輯であり、カタログ式網羅でもある。[i]

 

 足穂と云えばヒコーキだが、そんな足穂のヒコーキ趣味とも通ずる短篇集を手にした。イタリアの小説家エミリオ・サルガーリの作品群から二作を選り抜いた『月をめざして』(久保耕司=訳、イタリアSF友の会、2016年)だ。表題作の他に、「流星」の一篇が収められている。まさにコメット・タルホ閣下に誂え向き。

 サルガーリの邦訳作品に関しては、「黒い海賊Il Corsaro Nero」、『二十一世紀の驚異Le meraviglie del duemila』の二作に限られているようだ。前者は何度か文学全集の一つとして、後者は、2013年にシーライトパブリッシングから電子書籍版オンデマンド出版として刊行されている(ちょっとググるAmazonで品切れ表示になっていてしょんぼりされる方もいるかもしれないが、電子書籍楽天kobo、オンデマンドは楽天三省堂オンデマンドの頁で販売中)。

 

 さて、今回はその『エミリオ・サルガーリ短篇集』と同時に文学フリマにおいて頒布されていたイタリアのSF、スチームパンク作家ダリオ・トナーニの短篇集『明日は別の世界』(イタリアSF文庫:久保耕司=訳、イタリアSF友の会、2016年)を取り上げよう。

 たった今ほど書き付けたように、上に挙げたサルガーリと共にこのトナーニの短篇集は、2016年7月に開かれた文学フリマ札幌に於いて配布されていたもの。しかしながら、訳者の久保さんはプロの翻訳家として活躍なさっている方であり、既にトナーニの代表作の一書たる『モンド9』(シーライトパブリッシング、2014年)を筆頭に、最近松岡正剛が取り上げたステファーノ・マンクーゾとアレッサンドラ・ヴィオラの共著『植物は〈知性〉をもっている:20の感覚で思考する生命システム』NHK出版、2015年)、そして多数の訳書をシーライトパブリッシング等から出しており、今回の短篇集頒布に当たっても原著者に提案したうえでの刊行であり、短篇集の表題「明日は別の世界Domani è un altro mondo」はトナーニが案出したもの、そしてイラストレーターのフランコ・ブランビッラからも表紙絵を提供されるなど豪勢な同人誌となっている。

 それはそうと、本書の内容については、訳者本人のブログに掲載されているのでここでは省くことにして、簡単に印象だけ書いておこうと思います。

 

 ぼくはSFを余り読まないので、トナーニの作品と他作品との比較は出来ないが、『モンド9』に出て来るタイヤ付きの船ってVガンかよと思ってしまいます。

 本書全体としては、というよりトナーニの作風なのだろう、とにかく暗鬱たる世界と飢えや渇き、欠如、腐蝕、そして上昇と下降、堕落といったニーチェ主義っぽいテーマが見え隠れするが、もちろんいずれもややハードな仕立てで金属や機械が主調を為している。

 トナーニの初期作品という本書唯一の非SF作品「痙笑」がぼくとしては好みのものだった。それほど独自色があるわけではないが、わかりやすくキリストの変奏で、他に較べて宗教色が前面に出てきており、単に俗悪なグロテスク趣味とは一味違っていると云える。

 なんだか最近疲労が抜けないので、ここらで擱筆。失敬。

 

なぜ死ぬのか? いまほど生き生きとしたことは、これほどの青春は、なかったのに。残ったもの、過去に、付け加えるものは何もない。いつでもぼくらはやり直すのだ。釘が釘を叩き出す。しかしそれが四本あれば十字架ができる。ぼくは果たした、自分の公けの役割を――出来るだけのことを。ぼくは働いた、人びとに詩を与えた、多くの人びとと苦しみを分かちあった。

           チェーザレパヴェーゼ 1950年8月16日の日記

 

 

 

丘の上に月が昇る「イタリアSF友の会」本館:http://tsukimidango.seesaa.net/

 

「イタリアSF友の会」ダリオ・トナーニ紹介特設ページ:http://tsukimidango.hatenablog.jp/

 

イタリアの本棚:http://www.c-light.co.jp/modules/column/index.php/kubo_40/

(久保耕司氏に拠るイタリア文学の紹介)

 

[i] 稲垣足穂『東京遁走曲』(河出文庫、1991年、107頁)

フェルナンド・イワサキ『ペルーの異端審問』(八重樫克彦・八重樫由貴子=訳、新評論、2016年)【不完全版】書目索引

 

 

版元頁:http://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1044-1.html

 

 

 『ペルーの異端審問』は日系ペルー人の作家フェルナンド・イワサキの邦訳作品だが、正直に云うとぼくは巻頭言が筒井康隆だから手を出したのだけれども、読んで吃驚、理知に富んでいて尚且つ諷刺の利いた笑いが鏤められている秀逸な作品で、書名の通り、ペルーにおける異端審問を主題に、特に猥雑かつ淫靡な香りの漂蕩する記録を掘り起こしては皮肉を投げ掛ける気色ある短篇集だ。カルロ・ギンズブルグなんかの所謂「ミクロストリア」の手法もてエロを語るというのは素晴らしい着眼点だと惟われるが、作家の後書きに云うことには博士論文の執筆過程中の残滓というから、実は無自覚に面白いというだけでやっているのかもしれない。が、それはそれとして、本書には様様な書名が飛び出してくるのだが、ほとんどぼくからすれば馴染みのない本ばかりで、欲を云えば註を附してもらいたい気もするが、無いなら自分で調べれば済むことと考えて、「不完全」ながら書誌情報を調べたので、以下に出現頁順に掲げておくことにする。

 「不完全」というのは、直接その書名が出て来るものだけを扱っていること等の理由に拠る。また、過誤も大いに有るであろうが、その点はご指摘を乞う。

 

 その前に一言。2016年12月15日までに版元の新評論社宛に、書籍同封のアンケート葉書に必要事項と「パプリカ序文希望」と書いて送ると、イワサキが筒井御大の『パプリカ』スペイン語版(ヘスス・カルロス・アルバレス・クレスボ=訳)に寄せた序文「キョーゲン惑星の筒井康隆 Yasutaka Tsutsui en el planeta kyōgen」(八重樫夫妻訳)のpdf版が無料で御恵贈頂けるキャンペーンをやっているので筒井ファンもスペイン文学読者も好機を逸しないように。面白いデスヨ。

 

《つまり、感じるのも、イクのも、あなた次第ということだ。》

              ――フェルナンド・イワサキ(「キョーゲン惑星の筒井康隆」上掲pdf版、p.6)

 

プロローグ

 

  1. バスティアン・サラサル・ボンディ『恐るべきリマ』

Sebastián Salazar Bondy Lima la horrible (1968, México)

 

Wikipedia(西)の「ボンディ」の項:https://es.wikipedia.org/wiki/Sebasti%C3%A1n_Salazar_Bondy

 

 ボンディ(1924–1964)はペルーを代表する知識人であり、劇作家、随筆家、詩人、ジャーナリストとのこと。

 

  1. ヘンリー・ジェイムズ『後見人と被後見人』

Henry James Watch and Ward(1871)

 

Wikipedia(英)の「後見人と被後見人」の項:https://en.wikipedia.org/wiki/Watch_and_Ward

アーカイヴ:https://archive.org/details/watchandward00jamegoog

html版:http://www2.newpaltz.edu/~hathawar/watchandward.html

 

 ヘンリー・ジェイムズが「The Atlantic Monthly」誌上で初めて発表した長篇。たぶん未邦訳。

 

3.コナン・ドイルサセックスの吸血鬼」

Sir Arthur Ignatius Conan Doyle  The Adventure of the Sussex Vampire, The Case-Book of Sherlock Holmes

 

 日本語訳は新潮文庫創元推理文庫から出ている。

 

  1. アントニオ・デ・ラ・カランチャ『聖アウグスチノ修道会の教化記録』

Antonio de la Calancha  Coronica moralizada del Orden de San Augustin en el Peru con sucesos egenplares en esta Monarquía(1638)

 

Wikipedia(英):https://en.wikipedia.org/wiki/Antonio_de_la_Calancha

アーカイヴ:http://fondosdigitales.us.es/fondos/libros/3732/10/coronica-moralizada-del-orden-de-san-augustin-en-el-peru-con-sucesos-egenplares-en-esta-monarquia-c-compuesta-por-fray-antonio-de-la-calancha-de-la-misma-orden-dividese-este-primer-tomo-en-quatro-libros-lleva-tablas-de-capitulos-i-lugares-de-la-sagrada-escritura/

html版:http://bloknot.info/antonio-de-la-calancha-cronica-moralizada-del-orden-de-san-agustin-en-el-peru-tomo-1/

 

 アントニオ・デ・ラ・カランチャ(1584–1684)は、アンダルシアのエンコミエンダの領主の息子として誕れるも、相続を拒んで修道士になり、アウグスティニアンとして、また南米における原住民の研究者として知られ、人類学者の先駆けとも云われている。

 

  1. リカルド・パルマ『ペルーの慣習』

Manuel Ricardo Palma Soriano Tradiciones Peruanas(1872-1910)

 

Wikipedia(英)の「リカルド・パルマ」の項:https://en.wikipedia.org/wiki/Ricardo_Palma

Wikipedia(西)の『ペルーの慣習』:https://es.wikipedia.org/wiki/Tradiciones_peruanas

アーカイヴ:https://archive.org/details/tradicionesperu02palmgoog

Wikisourcehttps://es.wikisource.org/wiki/Tradiciones_peruanas

 

 リカルド・パルマ(1833-1919)は、ペルーの作家、教授、司書、政治家。『ペルーの慣習』はかれの最高傑作と目される。歴史と虚構を綯交ぜにしたような短篇などを書き、伝奇作家とされるリカルド・パルマだが、息子のクレメンテ・パルマも、アラン・ポーに影響を受けた作風で、秀れた作家として知られており、娘のアンジェリカもまた作家であり、ペルーのフェミニズム運動の活動家である。

 クレメンテ・パルマの方は彩流社から出ている『ラテンアメリカ短編集』(野々山真輝帆=訳、2001年)に「ブランカ農園」が収録されている。ぼくはこの本を読んだはずだけど、どんな内容だったか忘れてしまった、失敬。

 

 

1. 武装した亡霊

  1. 聖ベルナルドゥス『さまざまなテーマを扱った説教』

Bernardo de Claraval  Sermones de diversis

 

Wikipedia(日):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%81%AE%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%A5%E3%82%B9

.docファイル:http://www.documentacatholicaomnia.eu/04z/z_1090-1153__Bernardus_Claraevallensis_Abbas__Sermones_de_Diversis__LT.doc.html

 

 ベルナルドゥスの著作の裡、「主日・祝日説教集」(古川勲=訳)、「ギヨーム修道院長への弁明」(杉崎泰一郎=訳)、「恩恵と自由意思について」(梶山義夫=訳)が平凡社から出ている『中世思想原典集成10』(1977年)に収められている。

 また、ルーブル美術館のサイトでは、ファン・クレーフェという画家の《聖ベルナルドゥスの幻視》が公開されている。

 

  1. ペドロ・シルエロ『迷信・魔術についての覚書』

Pedro Ciruelo Tratado en el cual se repruevan todas las supersticiones y hechizerias: muy util y necessario a todos los buenos Christianos zelosos de su salvacion

 

Wikipedia(西):https://es.wikipedia.org/wiki/Pedro_Ciruelo

Google Book:https://books.google.co.jp/books?id=hsbdQDFol9QC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false

 

 ペドロ・シルエロ(1470-1554)はスペインの数学者、神学者、大学教授。Wikipediaの記事を読んだ局りでは、数学者としての名声の方が遥かに高そうだが、10^6をcuento、10^12をmillonと名けていたそう。ちなみにスペイン語でcuentoと云うと「短篇小説」の意。

 

  1. 聖グレゴリウス『道徳論(ヨブ記註解)』

San Gregorio I Magno Moralia, sive Expositio in Job

 

Wikipedia(日):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%82%B91%E4%B8%96_(%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E6%95%99%E7%9A%87)

Wikipedia(英)の「ヨブ記註解」の項:https://en.wikipedia.org/wiki/Commentary_on_Job

html版:http://www.lectionarycentral.com/GregoryMoraliaIndex.html

 

  1. バルトロメ・デ・ラス・カサス『聴罪師のための規則と警告』

Bartolomé de las Casas Avisos y reglas para confesores

 

Wikipedia(日):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B9

 

 ラス・カサスについては、幾つかの邦訳が出ている。岩波文庫『インディアス史』(長南実=訳、石原保徳=編、2009年)、『インディアスの破壊についての簡潔な報告』染田秀藤=訳、2013年、改訳版)、他に『裁かれるコロンブス』(アンソロジー新世界の挑戦1;長南実=訳、岩波書店、1992年)、『インディオは人間か』(アンソロジー新世界の挑戦8;染田秀藤=訳、岩波書店、1995年)、『歴史の発見』(アンソロジー新世界の挑戦13;長南実=訳、岩波書店、1994年)、「ペルーの財宝について」(J. ヨンパルト)「インディアス評議会に提出した嘆願書」(同前)『中世思想原典集成20 近世のスコラ学』平凡社、2000年)所収、等等。が、ここで取り上げられた著作は未邦訳のよう。

 

  1. マロン・デ・シャイデ『マグダレーナの改宗の書』

Pedro Malón de Chaide Libro de la conversión de la Magdalena, en que se ponen los tres estados que tuvo de pecadora, y de penitente, y de gracia, y fundado sobre el Evangelio que pone la Iglesia en su fiesta... (1588)

 

Wikipedia(西):https://es.wikipedia.org/wiki/Fray_Pedro_Mal%C3%B3n_de_Chaide

Google Book:https://books.google.es/books?id=5QS39cvvTLoC&printsec=frontcover&hl=es&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false

 

 シャイデ(1530-1589)は、スペインの宗教者、著述家。かれの作品はルネサンスの禁欲主義の文学に属す。

 

  1. パウルス・グリランドゥス『異端と魔術の考察』

Paolo Grillandi Tractatus de hereticis et sortilegiis(1536)

 

Wikipedia(英):https://en.wikipedia.org/wiki/Paolo_Grillandi

Google Book:https://books.google.co.jp/books?id=DUFSAAAAcAAJ&pg=PT8&hl=ja&source=gbs_selected_pages&cad=2#v=onepage&q&f=false

 

 パウルス・グリンランドゥス(1490-?)はイタリアのアブルッツォ出身の法学者で、魔女裁判では教皇受任裁判官として活動した。かれの『異端と魔術の考察』は、法学者としての経験に基づいて書かれており、魔術や悪魔学についての定本とされている。

 

2. ご婦人がたの聴罪司祭

  1. クラマー、シュプレンガー『魔女に与える鉄槌』

Heinrich Kramer, Jacob Sprenger Malleus Maleficarum

 

Wikipedia(日)の「魔女に与える鉄槌」の項:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%94%E5%A5%B3%E3%81%AB%E4%B8%8E%E3%81%88%E3%82%8B%E9%89%84%E6%A7%8C

Witchcraft Collection:http://ebooks.library.cornell.edu/cgi/t/text/text-idx?c=witch;cc=witch;view=toc;subview=short;idno=wit060

Wolfenbüttel Digital Library:http://diglib.hab.de/wdb.php?distype=struc-img&dir=inkunabeln%2F151-quod-2f-1

英訳版pdf:http://www.malleusmaleficarum.org/

 

 

 これはぼくでも名前を知っているので御存知の方もさぞ多いだろう。著者の名前の表記については、クラーメル、クラーマー等と揺れがある。意外と邦訳はされていない様子。英訳版がネット上に公開されている以上、日本語訳が待望されるが、出しても売れないだろうな……w。だれか全訳版を一挙に出して文フリやコミケで売る暴挙に出ては如何?

 

  1. フアン・ウアルテ・デ・サン・フアン『科学のための知恵の研究』

Juan Huarte de San Juan Examen de ingenios para las sciencias(1575)

 

Wikipedia(英):https://en.wikipedia.org/wiki/Juan_Huarte_de_San_Juan

アーカイヴ:https://archive.org/details/examendeingenios00huar

英訳版:https://archive.org/details/examendeingenios1594huar

 

 フアン・ウアルテ(1529-1588)はスペインの医師、心理学者。イワサキに拠れば、この本では精液が熱いということが説かれている。が、それはそれとして、ウアルテは、篠原資明の『差異の王国―美学講義』晃洋書房、2013年)で取り上げられているようで、ぼくも篠原先生の本は読んだはずだが、云われてみれば、あぁ何か聞いたことない人の名前出てたなぁくらいのあえかな印象が喚び起されるだけ*

 

* http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/186421/1/aida_4_067.pdf

 

  1. ビセンテ・メシア『夫婦の健全なる指針』

Vicente Mexia Saludable instrucion del estado del matrimonio(1566)

 

Google Book:https://books.google.co.jp/books?id=AV3ZCdRBGW8C&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false

Biblioteca Virtual Andalucía:http://www.bibliotecavirtualdeandalucia.es/catalogo/consulta/registro.cmd?id=6426

 

 メシアについては16世紀の修道士であること以外は不明。

 

  1. メルチョル・カノ『悔悛の再考』

Melchor Cano Relectiones duae

 

Wikipedia(日):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A7%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%8E

アーカイヴ:https://archive.org/details/bub_gb_CylKJpfR138C

 

 日本語版のWikipediaで項目が立てられるくらいには知られている? しかしながら、邦訳などは無さそう。『悔悛の再考』もいまひとつ情報無し。

 

 

3. 阻まれた悪魔への祈り

  1. フアン・デ・ロス・アンヘレス『秘められた天国と精神性の獲得についての対話』

Juan de los Ángeles Diálogos de la conquista espiritual del reino de Dios (1595)

 

Wikipedia(西):https://es.wikipedia.org/wiki/Juan_de_los_%C3%81ngeles

 

 ロス・アンヘレス(1536-1609)はフェリペ二世統治下スペインの著述家、聖職者。フランシスコ会修道士。古典古代についての豊富な知識を有していたことで知られる。

 

  1. マルティン・デ・カスタニェガ『迷信、魔術、悪魔祓いの書』

Martin de Castañega Tratado de las supersticiones, hechicerías y varios conjuros y abusiones, y de la posibilidad y remedio dellas(1529)

 

Wikipedia(西):https://es.wikipedia.org/wiki/Mart%C3%ADn_de_Casta%C3%B1ega

Biblioteca Digital de Castilla y León:http://bibliotecadigital.jcyl.es/i18n/consulta/registro.cmd?id=8195

 

 カスタニェガ(1511-1551)は、16世紀スペインの著述家、異端審問官、フランシスコ会修道士。

 

  1. ルイス・デ・グラナダ聖母マリアの奇跡』

Louis of Granada Vida de María: vida y misterio de la Santísima Virgen

 

Wikipedia(英):https://en.wikipedia.org/wiki/Louis_of_Granada

 

 

 ルイス・デ・グラナダ(1505-1588)は、ドミニコ会修道士、神学者、著述家、伝道者。尊者であり、列聖の根拠は遥か以前から聖座に拠って承認されていた。日本では慶長4年の古くからGuia de Pecadoresが『ぎやどぺかどる』の題で抄訳されている(『ペルーの異端審問』でも後程『罪人の手引き』として出て来るのでその折に改めて紹介する)。また、近年『キリシタン文学における日欧文化比較―ルイス・デ・グラナダと日本』(折井善果、教文館、2010年)といった研究書が出版されている。

 

 

4. インカでなければ黒人で

  1. 作者不明『リマの描写』

 さすがに未詳。17世紀初頭にユダヤ系ポルトガル人の商人が書いたものらしい。ここまでヒントが出ていながら判らないとは羞ずべき哉(スペイン語はちっとも判らないけど)。

 

  1. オウィディウス『恋の歌』

Publius Ovidius Naso Amores

 

Perseus Digital Library:http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.02.0068%3Atext%3DAm.%3Abook%3D1%3Apoem%3Dep

 

 オウィディウスと云えば、『変身物語』とか『アルス・アマトリア』の方が有名だろう。さあれ、ここでは「黒檀のごとき黒人は、この世に存在する人間のなかで最も美しい」と謂う句が引かれているようだが、あいにくと浅学の為に詳細は知れず。ちなみに国文社から出ている『ローマ詩人恋愛詩集』(アウロラ叢書:中野恒夫=訳、1985年)に全訳が収められているそうだが、絶版の模様。安くても4000円はするようなので、古書店で見つけ次第買うくらいの気持ちで探そう。

 

  1. プリニウス『博物誌』

Gaius Plinius Secundus Naturalis Historia

 

Perseus Digital Library:http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.02.0138%3Abook%3Dpreface%3Achapter%3D1

 

 プリニウス『博物誌』は雄山閣から大判と縮刷版の2種類が出ている。原題は、意を汲めば、自然の探求くらいの意味合いにはなるだろうか。昔、図書館に歯抜けで置かれてあるのを見て腹立たしく思ったのを想い出す。

 

  1. ザクセンのルドルフ『キリスト伝』

Ludolf von Sachsen Vita Christi

 

Wikipedia(独):https://de.wikipedia.org/wiki/Ludolf_von_Sachsen

Scaffali online:http://badigit.comune.bologna.it/books/ludolfo/scorri.asp?direction=prev&ID=2

Google Book:https://books.google.co.jp/books?id=ZIbw8BRMfvIC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false

 

 ルドルフ・フォン・ザクセン(1300年頃-1377、38? ルドルフ・デア・カルトイザー(カルトジオのルドルフ))は、修道士、著述家。『キリスト伝』はかれの主要著作とされており、単なるキリストの伝記ではなく、福音書の膨大な註釈書となっている。

 

23.『黒人奴隷アンドレス・クピがペルー副王領で犯した同性愛、性的倒錯、小児性愛、獣姦その他の罪に関する王立聴訴院による回顧録』

 解説に拠ると、出典はセビリアにあるインディアス総合古文書館所蔵のインディアス諮問会議史料『一五〇八年、リマ王立聴訴院の監獄に収容された黒人たちの男色の罪に関する報告書』。本文に拠れば、公証人の手に依るもの。読みたきゃ旅行ついでにセビリアに行くしかないか。

 

5. 空飛ぶイネス

  1. ルイス・デ・グラナダ『祈りと瞑想の書』

Fray Luis de Granada Libro de la Oracion y Meditacion

 

アーカイヴ(1566):https://archive.org/details/bub_gb_A-UAg3t3nzoC

アーカイヴ(1594):https://archive.org/details/bub_gb_67wILbire2IC

 

 3章参照(意図せぬダジャレが)。

 

  1. ヤコブス・デ・ウォラギネ『黄金伝説』

Jacobus de Voragine Legenda aurea

 

Wikipedia(日):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%82%B3%E3%83%96%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%A9%E3%82%AE%E3%83%8D

Wikipedia(日)の「レゲンダ・アウレア」の項:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%A6%E3%83%AC%E3%82%A2

アーカイヴ:https://archive.org/details/legendaaureavulg00jacouoft

アーカイブ(英訳版):https://archive.org/details/goldenlegendlive00jaco

 

 ウォラギネの『レゲンダ・アウレア』は新泉社から抄訳人文書院平凡社ライブラリーから全訳が出ている。本屋でよく見かける気がしていたが、絶版らしい。絶版と聞くと途端に手に入れたくなる……。

 

  1. フアン・ゴンサレス・デ・クリタナ『完全なるキリスト教徒』

Juan González de Criptana El Perfecto Christiano(1601)

 

 著者名と書名の他の情報はほとんど不明。Wikipedia(西)の「スペインにおける禁欲主義」中の「アウグスティヌス会の禁欲主義Escuela ascética agustina」の項に辛うじてここに掲げた情報が掲載されていた。

 

 

27.『福者サンタ・アンヘラ・デ・フルヒノ』

 

Wikipedia(日)の「フォリーニョのアンジェラ」の項:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%A7%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%A9

 

 フランシスコ・ヒメネス・デ・シスネロスがアンヘラ・デ・フルヒノÁngela de Folignoことアンジェラの伝記をスペイン語に翻訳させたものを指しているらしい。ちなみに、2013年に列聖されている。

 

28.『傑出した聖女たちの物語』

 不明。原書を買うしかなさそう。

 

 

  1. フアン・デ・アビラ『精神書簡』

Juan de Ávila Audi, filia

『精神書簡 Spiritual Letters』は上記Audi, filiaからの抜粋版。

 

Wikipedia(英):https://en.wikipedia.org/wiki/John_of_%C3%81vila

アーカイヴ:https://archive.org/details/avisosyreglascri00avil

 

 フアン・デ・アビラ(1499-1569)はスペインの司祭、伝道者、スコラ学の著述家、神秘主義者。カトリック教会から聖人と教会博士とに言明されている。また「アンダルシアの使徒」とも称ばれている。『ペルーの異端審問』で挙げられている『精神書簡』は本来の著作集である『聴け、娘よ Audi, filia』から書簡のみ選り抜き英訳したものを謂う。

 

  1. ペドロ・シルエロ『迷信と魔術への永罰』

Pedro Ciruelo Reprobación de supersticiones y hechicerías(1538)

 

Google Book:https://books.google.es/books?id=7nHQkEC9WZkC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false

Biblioteca Digital de Castilla y León:http://bibliotecadigital.jcyl.es/es/consulta/registro.cmd?id=12361

 

 ペドロ・シルエロについては1章を参照のこと。

 

  1. サンティアゴ・デ・カルデナス『新たなる空中飛行術』

Santiago de Cárdenas Nuevo sistema de navegar por los aires, sacado de las observaciones de la naturaleza volátil

 

Wikipedia(西):https://es.wikipedia.org/wiki/Santiago_de_C%C3%A1rdenas

 

 サンティアゴ・デ・カルデナス(1726-1766)は、ペルーの飛行機開発先駆者。「ヒコーキ野郎」とか「鳥人間」とか綽名されていたとかいないとか。日本で云う浮田幸吉二宮忠八か。

 

 

6. 悪魔たちの仕置き人シスター

  1. レオナルド・ハンセン『偉大なる聖ロサの驚くべき生涯とみごとな死』

Leonardo Hansen Vita mirabilis et mors pretiosa venerabilis sorosis Rosae de S. Maria Limensis(1664)

 

Google Book(1664):https://books.google.co.jp/books?id=t87P0Bvf2rUC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false

Google Book(1680):https://books.google.co.jp/books?id=AUPlXdkmJnsC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false

アーカイヴ(1664):https://archive.org/details/vitamirabilisetm00hans

アーカイヴ(1680):https://archive.org/details/vitamirabilisetm00hans

アーカイヴ(西語版、1665):https://archive.org/details/vidaadmirableymu00hans_0

アーカイヴ(西語版、1666):https://archive.org/details/vidaadmirableymu00hans

アーカイヴ(独語版):https://archive.org/details/dasswunderbarlic00hans

 

 1664年と1680年にそれぞれ刊行された二巻本の裡の一巻目が引かれていると思われる。が、詳細は不明。ちなみに1680年に出た方のタイトルは『聖なる奇跡の人美しき乙女聖ロサの驚異の生涯と償い高き死歿』くらいの意味でしょうか。

 

  1. ジロラモ・メンギ『悪魔たちに与える鞭:恐るべき悪魔祓い』

Girolamo Menghi Flagellum daemonum exorcismos terribiles(1576)

 

アーカイヴ(1577):https://archive.org/details/bub_gb_VOrKGRe5HGkC

アーカイヴ(1587):https://archive.org/details/bub_gb_thdBN6fixOcC

アーカイヴ(1623):https://archive.org/details/bub_gb_CpNuAACVgKUC

アーカイヴ(1644):https://archive.org/details/bub_gb_pY7F410OHTwC

アーカイヴ(1644):https://archive.org/details/flagellvmdaemon00menggoog

アーカイヴ(1683):https://archive.org/details/bub_gb_bTnMmioij_UC

アーカイヴ(英語版):https://archive.org/details/flagellumdmonum00menggoog

 

  1. トマス・アクィナスボエティウス「三位一体論」に寄せて』

Thomas Aquinas Super Boethium De Trinitate

 

Wikipedia(日):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%A3%E3%83%8A%E3%82%B9

html版:http://www.dhspriory.org/thomas/BoethiusDeTr.htm

 

 アクィナスと云えば『神学大全』が有名だが、『ボエティウス「三位一体論」に寄せて』には、『『ポエティウス「三位一体論」に寄せて』翻訳と研究』(長倉久子=訳註、創文社、1996年)と『中世思想原典集成14 トマス・アクィナス』山本耕平=編訳、平凡社、1993年)がある。

 

 

7. 高徳の誉れ

 この章には書名無し。

 

 

8. 純潔を繕い、男の精液を集める女

  1. クラマー、シュプレンガー『魔女に与える鉄槌』

 2章参照。

 

  1. ペドロ・シルエロ『迷信と魔術への永罰』

 5章参照。

 

  1. ジョセフ・デ・ムガブル『リマ日記』

Joseph de Mugaburu Diario de Lima

 詳細不明。

 

9. 不道徳な夢想家

  1. ニコラス・アイメリク『異端審問官の手引き書』

Nicolás Aymerich Directorium Inquisitorum(1376)

 

Wikipedia(英):https://en.wikipedia.org/wiki/Nicholas_Eymerich

Wikipedia(英)の「異端審問官の手引書」の項:https://en.wikipedia.org/wiki/Directorium_Inquisitorum

Witchcraft Collection:http://ebooks.library.cornell.edu/cgi/t/text/text-idx?c=witch;idno=wit045

 

 ニコラス・アイメリク(1316-1399)は、ローマのカトリック教会の神学者アラゴン連合王国の異端審問所の大審問官を務めた。『異端審問官の手引書』で最もよく知られている。

 

10. すべての女性に囲まれた者は幸いであった

  1. ボッカチオ『デカメロン

Giovanni Boccaccio Decameron

 

 『デカメロン』の邦訳は順不同に挙げれば、河出書房新社平川祐弘=訳、2012年)、岩波文庫(野上素一=訳、1948-1959年)、講談社文芸文庫(河島英昭=訳、1999年)、ちくま文庫(柏熊達生=訳、1987年)等等。

 

11. リマ生まれのエバ

  1. ディエゴ・ペレス・デ・バルディビア『隠棲者、とりわけ神に仕える者たちへの戒告』

Diego Pérez de Valdivia Aviso de gente recogida y especialmente dedicada al servicio de Dios

 

Wikipedia(西):https://es.wikipedia.org/wiki/Diego_P%C3%A9rez_de_Valdivia

Google Books:https://books.google.co.jp/books?id=Fog1r0TbhFYC&printsec=frontcover&hl=es&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false

アーカイヴ(上と同じ物):https://archive.org/details/bub_gb_Fog1r0TbhFYC

 

 ディエゴ・ペレス・デ・バルディビア(1520-1589)は、フアン・デ・アビラの弟子であり、平信徒の霊性についての著作をものした。バエサ出身。

 

 

12. 神から逃げた男

 この章には書名無し。

 

 

13. 神の集金係

  1. ルイス・デ・グラナダ『罪人の手引き』

Fray Luis de Granada Guía de pecadores(1555)

 

アーカイヴ(西語版、1899):https://archive.org/details/guiadelospecador00luis

アーカイヴ(仏語版、1852):https://archive.org/details/guidedespcheur00luis

アーカイヴ(英語版、1760):https://archive.org/details/sinnersguidefrom00luisiala

アーカイヴ(英語版、1844):https://archive.org/details/sinnersguideintw00luisuoft

アーカイヴ(英語版、1890):https://archive.org/details/TheSinnersGuideLuisDeGranada

html版(英):http://www.ewtn.com/library/SPIRIT/GRANADA.HTM

『ぎやどぺかどる』:http://rarebook.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/gazo/cgi-bin/b_detail.cgi?disp_num=10&disp_start=1&collection=kiri&c_name=%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%BF%E3%83%B3%E5%86%99%E6%9C%AC&book=giya&sub_book=&rgst=1&c_title=%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%BF%E3%83%B3%E5%86%99%E6%9C%AC&c_title_dir=kiri&book_key=&cls=&col_num=&index_page=off

 

 日本では、『ぎやどぺかどる』として、1599年には抄訳が作られていたようで、副題が「罪人を善に導くの儀也」。同書には『ぎやどぺかどる』(キリシタン文学双書 キリシタン研究38:尾原悟、教文館、2001年)や『ぎやどぺかどる他』(覆刻日本古典全集現代思潮社、1978年)等の出版物がある。

 

 

14. 平常服の耐えがたい悦び

 この章には書名無し。

 

 

15. アリストテレスの裁判

 この章には書名無し。

 

 

16. 神の天使

  1. グアッツォ『魔女の概説』

Francesco Maria Guazzo Compendium Maleficarum

 

Wikipedia(英):https://en.wikipedia.org/wiki/Francesco_Maria_Guazzo

Wikipedia(日)の「悪行要論」の項:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA%E8%A1%8C%E8%A6%81%E8%AB%96

Witchcraft Collection:http://ebooks.library.cornell.edu/cgi/t/text/text-idx?c=witch;idno=wit055

 

 なぜか著作の方の頁はあるグアッツォ(1570-)は、イタリアの司祭。英語版にも著作でお馴染みとあるからそんなものなのか。

 

17. マザー・ルシアの聖なる御足

 この章には書名無し。

 

 

解説

  1. カトリック両王の都リマ異端審問所の秘密監獄で死亡した女、マリア・ピサロの裁判記録』

 不明。

 

  1. レアンドロ・デ・グラナダ『世界の創造以来、預言者やその友らの魂、自然や聖書に神がいかに素晴らしき光を注いできたか』

Leandro Granada y Mendoza Luz de las maravillas que Dios ha obrado desde el principio del mundo en las almas de sus profetas y amigos, assi en en la ley natural y escrita como en la euangelica de Gracia

 詳細不明。

 

 

  1. リカルド・パルマ『リマ異端審問の記録』

Ricardo Palma Anales de la inquisición de Lima

 

 リカルド・パルマについてはプロローグを参照。

 

  1. トリビオ・メディナ『リマ異端審問所の歴史』

José Toribio Medina Historia del Tribunal del Santo Oficio de la Inquisición de Lima : (1569-1820)

 

Wikipedia(英):https://en.wikipedia.org/wiki/Jos%C3%A9_Toribio_Medina

アーカイヴvol.1:https://archive.org/details/historiadeltrib02medigoog

アーカイヴvol.2:https://archive.org/details/historiadeltrib01medigoog

 

 トリビオ・メディナ(1852-1930)は、チリの書誌学者、作家、歴史家。

 

  1. アルバロ・ウエルガ『照明派の歴史 第三巻』

Alvaro Huerga Historia de los alumbrados(1986)

 

  1. マルセル・バタイジョン『バルトロメ・デ・ラス・カサスに関する研究』

Marcel Bataillon El padre Las Casas y la defensa de los indios(1976)

 

Wikipedia(英):https://en.wikipedia.org/wiki/Marcel_Bataillon

 

 マルセル・バタイヨン(1895-1977)は、フランスのヒスパニック研究者、特に16世紀スペインの哲学と霊性の研究で知られる。

 

  1. パウリーノ・カスタニェーダ、ピラール・エルナンデス『リマの異端審問(一五七〇-一六三五) 第一巻』

Paulino Castañeda Delgado, Pilar Hernández Aparicio La inquisicion de Lima (1635-1696); vol.I(1989)

 

Wikipedia(西):https://es.wikipedia.org/wiki/Paulino_Casta%C3%B1eda_Delgado

 

  1. イエズス会『ペルーにおける不滅の記録 第四巻』

 詳細不明。

 

  1. 『一五九〇年、リマ王立聴訴院の監獄に収容された黒人たちの男色の罪に関する報告書』

 詳細不明。

 

  1. 『インディアスへと旅立った乗客の名簿 第七巻』

 詳細不明。

 

  1. フアン・アントニオ・スアルド『リマ日誌(一六二九-一九三九)』

Juan Antonio Suardo Diario de Lima

 詳細不明。

 

  1. センバンテス『ドン・キホーテ

 紹介不要。

 

  1. ホセ・デル・オジョ編集『一六四九年一二月二〇日リマ市にておこなわれた異端審問判決式全記録』

 詳細不明。

 

  1. オドリオソラ将軍『文学資料集』

 詳細不明。

 

  1. 『リマ市ナザレ修道院創設の歩み』

 詳細不明。

 

エピローグ

  1. フェルナンド・イワサキ『ペルーの異端審問』

Fernando Iwasaki Inquisiciones peruanas(1994, 1996, 1997, 2007)

 

版元:http://paginasdeespuma.com/catalogo/inquisiciones-peruanas/

Wikipedia(西):https://es.wikipedia.org/wiki/Fernando_Iwasaki

 

 云わずと知れた本書『ペルーの異端審問』は、これまでに第4版まで刊行されているが、委細は不明。

 イワサキの作品の邦訳についてはこれまでに雑誌などで出ているようだが、心の純粋持続が弛緩してしまったので機会が有れば追記したいと惟う。

 最後に、以下のブログでイワサキの小文が日本語に訳されて公開されているので、世の中には好学かつ親切な情趣溢れる人がいたものと感心致します。

 

http://blog.goo.ne.jp/kenjim81312/e/e38211acfc1ad12d38991bac84063aa6

 

 

 この記事が何かの役に立つとは到底思えないが、Web上で日本語に拠って取り上げられるのは初めてのことも多かろうと思う、かと云って別に個個の情報について詳しく紹介してはいないので今後興味を有たれた方がやられたら宜しいかと。まだまだ勉強不足と痛感した次第。

 

 

それでは。

イタリア文藝叢書-1『ぶどう酒色の海 Il Mare Colore Del Vino イタリア中短編小説集』(吉本奈緒子・香川真澄=編訳、イタリア文藝叢書刊行委員会、2013年)

 先日、ルネ・ウェレックとオースティン・ウォーレンの共著『文学の理論』(太田三郎=訳、筑摩書房、1954年)を読んでいたら、「蒐集→型録→編集」の順序が大事だと云うようなことが書いてあった。ぼくはこれを読んで成程と思った、これはぼくだけの課題かもしれないが、どうもこの世の中(とは云え、ぼくは滅多なことじゃ外に出ないし世間のことなぞ判りはしないが)蒐集から編集までを短絡につなげようとする風潮があるんじゃないかと、そんな風に靉靆たる心裡を明瞭に自覚出来たからだ。つまり、「型録」作りを疎かにして、無理やりに編集へと繰り出すから躓くのではないか、社会を渡るのに何もかも曖昧なままにし過ぎているのではないか。ここで大事なのは、別に世界とか存在とかが曖昧だと云っているわけでないということだ、曖昧なのは人間の思索の側だということだ。喩えて言うなら、「由良君美荒俣宏松岡正剛」(何の喩えにもなっていない)の「荒俣宏」がすっぽり脱け落ちているというわけだ。ハイデガーが云う様にDingが「蒐集」なら、「型録」とは、Sacheではないにしても、やはり文字通りのkatalogosだと惟う(ジェイムズもあらゆる事物は一つの物語を物語っているとか何とか云っていたけど)。

 それはそうと、以前から、ぼくは、大抵の人がやっているだろう、好きな作家の著作リストを作ったりしているのだけど、或る日、ディーノ・ブッツァーティのリストを作製中に「イタリア文藝叢書」なるものを発見し、勝手独り興奮していた。調べても陸に情報が出て来ない。

 それからしばらくして、つい先だってその「イタリア文藝叢書」の第1巻『ぶどう酒色の海』を手に入れたので、折角だから紹介しておこうと考えた次第。で、面倒だし、本文批評なんてやってられるか、外在性に依拠して紹介しましょう。

 

 タイトルは掲げた通り、(イタリア文藝叢書-1)『ぶどう酒色の海 Il Mare Colore Del Vino イタリア中短編小説集』。

 訳者は吉本奈緒子さんと香川真澄さんのお二人。発行所はイタリア文藝叢書刊行委員会で、住所は山口県下関市に置かれている。発行は2013年10月25日。

 それで、肝心の内容は下記の通り。

 

 

 

              [近代編]

ジョヴァンニ・ヴェルガ「夢」

マリア・メッシーナ「移りゆく“時”」

ガブリエーレ・ダンヌンツィオ「処女地」

ルイジ・ピランデッロ「山小屋」

グラツィア・デレッダ「ドリーア城の伝説」

              [現代編]

イタロ・ズヴェーヴォ「母親」

ミレーナ・ミラーニ「エレベーター」

ジョルジョ・バッサーニ「チーズの中のねずみ」

ニコラ・リージ「塑像」

アンジェロ・ガッチョーネ「至上の愛」

マリオ・トビーノ「ヴィアレッジョ沖のかれら」

ファブリツィオ・キエスーラ「出口のない美術館」

レオナルド・シャーシャ「ぶどう酒色の海」

ダーチャ・マライーニ「嵐」

ダーチャ・マライーニ「バンクォーの血」

スザンナ・タマーロ「コモド島」

 

出典データとコメント 吉本奈緒子

半島のざわめき――後書きに替えて 香川真澄

              資料編

イタリア近現代文学史略年表

収録作家出生地マップ

TESTI(原書出典)

 

 

 

 翻訳に関しては、吉本奈緒子訳(英訳からの重訳?)がヴェルガの「夢」、ズヴェーヴォ「母親」、タマーロ「コモド島」の三つ。それ以外は香川真澄訳。ところで、この訳者のお二人は一体何者?と思った向きも多いだろうから、判りえた範囲の情報を挙げていこう。

 まず、吉本奈緒子さんは巻末に附された紹介文には「1972年、山口県山口市生まれ。ボストン大学経営学部卒業後、ニューヨークで会社勤務。10年間のアメリカ生活を経て、帰国後は通訳・翻訳・英会話指導にあたる」、そして現在山口県在住で三児の母とある。

 次に、香川真澄さんは、過去に新読者社というところから『青の男たち 20世紀イタリア短編選集』を出版されている。ちなみに、収録されている作家はモラヴィアにギンズブルグにパヴェーゼヴィットリーニカルヴィーノにカッソーラにブッツァーティetc….。とまれ、この香川さん、地方紙に頻繁に取り上げられており、その一つを読むと、フィレンツェで仕事をされながらイタリア語を学んでいたよう。また、ご本人も詩を嗜んでいらして、詩集を刊行してもいる。県立図書館の頁にあった著者情報に拠ると「1959年下関市生まれ。福岡大学商学部卒業。87年にイタリア留学し、90年帰国。神戸「諷詠」同人。第6回朝日俳句新人奨励賞受賞。著書に「赤い屋根、みどりの煙突」など。」だそうです。

 それにしても、後書きから迸る情熱振りが素晴らしく、これで大手出版社から声が掛からないのは残念というか何というか。もう応援するしかない。何だったら、ぼくも山口に往ってイタリア文藝叢書刊行委員会の仕事を手伝いたいくらいだ。

 

「イタリア文学は「個」がおもしろい。/……天体に例えるなら、星座や星雲として見るのではなく、個々の星を鑑賞すべきなのだ」(p.195)

 

 さて、最後に「イタリア文藝叢書」の刊行予定リストを次に掲げておこう。

 

1. L・シャーシャ他『ぶどう酒色の海 中短編集』 (刊行済)
2. アダ・ネグリ『あけの明星』 (刊行済)
3. グラツィア・デレッダサルデーニャの花』 (刊行済)
4. ディーノ・ブッツァーティ『夜の挿話』 (刊行済)
5. ゴッフレード・パリーゼ他『イタリアエッセイ集』
6. C・コッローディ他『イタリア戯曲集』 (刊行済);『観劇のあと イタリア一幕物劇集』に改題
7. G・ダンヌンツィオ他『イタリア詞華集』
8. カルロ・カッソーラ『カッソーラ初期小品集』 (刊行済); 『商人の妻 カッソーラ初期小品集』に改題
9. C・ザヴァッティーニ他『おいしい取引き―ユーモア小説集』
10. I・カルヴィーノ他『イタリア幻想小説集』
11. 香川真澄『ルネッサンスの翼』
12. 佳永嘉士他『古代ローマ・コイン研究』

            イタリア文藝叢書続刊
13. アダ・ネグリ『いのちの調べ 詩と評伝』
14. G・ダンヌンツィオ他『イタリア童話集』
 

 

 

 国会図書館山口県図書館に寄贈本がある他、某インターネットオークションサイトで出品されているので、興味がある方は買ってはいかがかしら(本来書痴たるもの教えないのが常識だが)。ぼくも将来はチェコ語やらスロバキア語やらハンガリー語やらポーランド語やらスロヴェニア語やらルーマニア語やらを勉強して翻訳でもやってみようかなと考えているので、56億7千万年後に期待していて欲しい。

 (なんだかカルヴィーノを取り上げる日が遠退いた気がする……)

『ロシア幻想短編集』(西周成=編訳、アルトアーツ、2016年)

 大手出版社(と云ったって規模から云えばすべて中小企業だが)から出る斗りが、名の知られた書評記事に踊る許りが、本では無いのだ、こう惟うにつけて、辺境文学のちから勁さ、人間の隠れた本性へと向かう分節原理の微視の眼の翻りが有難く感じられる、案外、老荘の言を俟たなくても、仏性やらの慈悲の心もそんな後ろ昏い端境に在って際立って顕現するのかもしれない。

 今日に於いてはともすればちょっと食傷のきらいもあるくらいに定着している「幻想」文学の語だが、その源流を辿ると、どうやら『哲学字彙』のHallucinationの訳語として現れたのが初めらしい。このHallucinationは後に「幻覚」に衣替えして、「幻想」の方は『英華和訳字典』、『訂増英華字典』を介してFancy, Fantasm, Fantastic, Fantastical, Fantasticallyの訳語として掲げられることになるそうな。そして「怪談」「恠異」「怪奇」「奇想」「空想」等の語と共に所謂「純文学」から切り離されたジャンル小説の一角をなすわけだが、浅学のぼくはここら辺で口を噤んでおこう。それにしても、いつか明治期の新語濫造の経緯を調べてみたいものだ。

 細かいことはさて置いて、今回、簡単ながら取り上げる『ロシア幻想短編集』には、十九世紀から二十世紀の始めまでの短編の七つが収録されている。作品の題名と作者の名前を以下に掲げる。

 

  1. オルゴールの中の街 ウラジーミル・フョードロヴィチ・オドエフスキー
  2. 勝ち誇る愛の歌 イワン・ツルゲーネフ
  3. 酔っ払いと素面の悪魔との会話 アントン・チェーホフ
  4. 夢 アレクサンドル・イワノヴィチ・クプリーン
  5. 獣が即位した国 フョードル・クジミチ・ソログープ
  6. ストラディヴァリウスのヴァイオリン ニコライ・ステパノヴィチ・グミリョーフ
  7. 魔法の不名誉 アレクサンドル・ステパノヴィチ・グリーン

 

 上に並べた作家の名を、ロシア文学についてほとんど識らないぼくは存じ上げないのだが(正直に云うと、ツルゲーネフチェーホフソログープの名前を知っているくらい)、訳者の解説に言を籍りながら、上辺だけでも紹介しておこうと思う。

 

ウラジーミル・フョードロヴィチ・オドエフスキー「オルゴールの中の街」

 さて、巻頭一作「オルゴールの中の街」は、主人公の少年ミーシャが題名の通りオルゴールの中にある小さな街を巡るちょっとした冒険譚で、やや劇掛かった言葉の轉回に時代を感じる。作者のオドエフスキー公爵(1804~1869年)は、貴族の出、だが幼時に孤児となって親戚に育てられ、若い頃はシェリングやホフマンの影響を受け、オカルティズムにものめり込んだとか。その後、オカルト思想には幻滅して啓蒙主義に目覚めたらしい。この一作も、そんな遍歴の一路を示すもので、もとは子供向けの連作短編の一つ。日本ではSF小説「四三三八年」が『ロシア・ソビエトSF傑作集〈上〉』(創元SF文庫、1979年)に入っている。後で触れるが、クプリーンの「液体太陽」という題の作品も『ロシア・ソビエトSF傑作集〈上〉』に収められている。

 ミーシャは夢の中でオルゴールの中の街を経巡り、そこで擬人化されたオルゴールの部品と出会って、仕組みを理解しようとするといった筋運びだが、重要なのは少年が「街」へ参入することで、実際に、夢の中ではあるが、それらの労働者と会話し、その機構、階級の在り様をひとまずは体験し了解する。そしてその体験を「順序立てて」父親に説明するのだが、父親にはよりよく理解するためには力学を学ぶよう諭される。いかにもロシアっぽいと云えば、っぽいのだが、力点を夢が少年に拠って「順序立てて」父親に伝えられるという部分に置くと面白いかもしれない。

 改めて、オドエフスキーの邦訳を列記すると以下の通り。

 

「四三三八年」(深見弾=訳)『ロシア・ソビエトSF傑作集〈上〉』(創元SF文庫、1979年)所収。

『火のドラゴンの秘密』(渡辺節子=訳、ポプラ社文庫、1987年)

「幽霊」(浦雅春=訳)『ロシア怪談集』(沼野允義=編、河出文庫、2003年)所収。

 

イワン・ツルゲーネフ「勝ち誇る愛の歌」

 二つ目の「勝ち誇る愛の歌」は、本書では最長の作品。作者は云わずと知れたツルゲーネフで、かれの作品については邦訳が多数存在する。が、どうも絶版品切が多い、翻訳ものは大抵こうだから残念。

 作品は、「以下は、私がとあるイタリアの古い写本で読んだことである」という語りから始まり、物語は音楽を嗜むムツィオと絵画を嗜むファビオとの二人の青年がヴァレリアという街一番の美女に同時に惚れるという恋愛模様を軸に繰り広げられるのだが、結局はヴァレリアにはどちらの青年も選べず、母親の判断に任せることにして、その母親はファビオの方を選び、恋敗れたムツィオは財産を処分し遥かなる東方へ旅立ってしまう。結婚の栄に与ったファビオだが、かれら夫婦には子供が出来ずに居た、四年が経つ頃にはヴァレリアの母親が歿る。それから更に一年が経つと、ヴァレリアは悲しみを乗り越えてしまうのだが、報せも無いままにあのムツィオが、舌を切り落とされたマレー人の下僕を従え、街に戻って来た。ファビオは喜びの裡にムツィオを邸宅の離れに招待する、そうして、三人での生活が始まる。歓待を受けたムツィオは、シタールを演奏してみせるのだが、「幸せな、満たされた愛の歌で通っている」というその曲の調べは夫妻に不安を催させる。ヴァレリアはその晩、ムツィオに襲われる夢を見て恐怖で目覚める、そのことを夫に告げると、二人は離れから響く先程の「勝ち誇る愛の歌」の旋律を聞き、曲も終わる頃にようやく眠りに入る。翌朝、ムツィオに眠れずにいたのだろうと訊くが、ムツィオは一度寝たのだと云い、その時に見た夢の話をする、夢の中でムツィオは「かつて愛した女」と出会ったのだと語る、その内容はヴァレリアの夢と全く一致していた。「その女」はムツィオの談ではデリーの街で出会ったインド人の妻だった、そしてそのインド人夫婦はどちらも既に死んだのだと云う。

 ファビオはかつての親友ムツィオに違和感を覚え、また不信感を募らせていく。ヴァレリアは修道院へ赴き、別荘へと連れ立って来た聴聞僧から妖しげな魔術師をすぐに去らせるように告げられる。一緒にその言を聞いたファビオは賛成する。それから夜になると、ヴァレリアに異変が起き、眠っていたはずが、夢遊病者のように離れの在る庭の方へ向かって歩き始める。ファビオが離れへ向かうと、ちょうどムツィオが、ヴァレリアと同じ様に両手を前に伸ばした姿勢で歩いてくるのが見えた。ファビオは激怒してムツィオを短剣で刺してしまう。すると、ヴァレリアはその場で倒れ込む。ファビオによってベッドに運ばれた彼女はようやく安眠する。

 ファビオは直ぐに不安を催し、ムツィオの死を確かめに離れへと急ぐ。かれは慥かに死んでいて、マレー人の下僕が傍らに跪いていた。ヴァレリアの眼が覚める頃、執事が寝室へやって来て、ムツィオは病気をしたから街へ移りたいとの伝言をする。二人は喜び、ヴァレリアは夫にムツィオから貰った真珠の首飾りを外させ、井戸へ投げさせる。庭をそぞろ歩いていると、離れではもう荷造りをする人々が働いていた。マレー人の姿が無いのに気付いたファビオは離れへ忍び込む。そして、椅子に座る旅姿のムツィオの死体を認める。ムツィオの前にはマレー人が居り、強烈な臭気を発する液体の入った杯が床に置かれ、その脇で小さな蛇がとぐろを巻いている、マレー人は祈りを捧げている。すると、ムツィオの死体が動き始め、マレー人がそうするのに合わせて呻き声を発した。

 ムツィオとマレー人は去って行った。夫婦は元踊りの生活を始め、画きかけの絵を完成させ、ヴァレリアはオルガンを弾いていたが、突然奏でられた音色はあの「勝ち誇る愛の歌」のものだった……。

 とまあ、丁寧に筋を追いすぎたせいか予想外に長くなってしまったが、読み応えがある重量の有る佳作と云えよう。例えば、母親の死が事件を齎すというのは、祭りの場面で彼女が都市の守護神であるところのアテナの前に坐っていることに拠って前もって象徴されているだろうし、そうした象徴の読み解きもこの作品には成り立つ辺り、読み応えが有るというわけだ。別の視点からは、西洋に於ける東方幻想に対するロシア人の観方がわかるかもしれない。また、不帰の帰還者、異邦人、余計者、マレビト(誓って云うが、別にマレー人に掛けてるわけではないぞ)とか云った詩趣溢れる鍵語を用意してもいいかもしれない。

 

アントン・チェーホフ「酔っ払いと素面の悪魔との会話」

 三作目、チェーホフ26歳の作「酔っ払いと素面の悪魔との会話」。一言で云って、悪魔稼業もあがったりですよ、とほほってな感じのショートショート。要するに星新一

 

 

アレクサンドル・イワノヴィチ・クプリーン「夢」

 四作目はクプリーンの「夢」。三つの夢或いは幻想の話が語られる。まず第一に幼少時に見たという幻、通りを行き交う人々、かれらは信仰を忘れている、やがて最後の審判の喇叭の音が鳴り響くだろうと子供は夢想する。二つ目に、ほとんど毎月繰り返されるという懼夢、幾人かの人と共に暗い部屋で死刑の時を待っている、夢だと強く考えるが目は覚めず、遂にこれが現実だと悟り、扉は開かれ、「僕の番」だと〈私〉は思い、死刑執行人の顔がこちらを向く、とここで目が覚める。三つ目は地球の夢、巨大な核が深淵を回転して飛ぶ夢だ、地球は赤い悪夢に包まれていて、目が覚めない、そして〈私〉は祖国を見る、人々は奴隷制に苦しんでいる、他方で食べ過ぎて嘔吐するデブを見る、しかし〈私〉に世界が目を覚ますような気がし始める、いつか「穏やかで賢明で重みのある言葉」が響き渡り、皆が目を覚まし、深く息を吸い、悟るだろう、目覚めた地球は母親の如き言葉を投げ掛けるだろう。最後には作家から読者へ、というより誰でもない社会へ向けたメッセージが投げ掛けられて終わる。

 それにしても、最後の「地球の夢」は、ユングが晩年に見ていたという宇宙の夢に似ている。二つ目の死刑を待つ部屋の夢で、夢を現と悟ることと死を受け入れることが連続して語られるのは興味深い。訳者解説に拠れば、「ロシア第一革命」(1906年)に触発されたものと思われると云われているが、所謂単なる「宣伝」としての文学には堕しきってはいないとぼくには思われるし、作家の想像力、表現力の勁さを感じさせる作品。

 

フョードル・クジミチ・ソログープ「獣が即位した国」

 五作目のソログープ「獣が即位した国」は、何となくボルヘスが好みそうだなと素朴に思った作品。「時を経て半ば朽ちたパピルスの紙片には、とうに不易の永遠に退いてしまった事柄や人々についての物語の数々が記されている」という洒脱な導入で始まる、人間の中に宿るであろう獣性を扱う変身譚。或る街で王を選ぶに際して、長老達は門外に宝石で飾られた黄金の卵を置き、「遠く異国から来て」草に隠れた金の卵を拾い上げた者を王に択ぶことに決めた。黒髪の少年ケニヤと赤毛の少年メテイヤが通り掛かり、始めケニヤが卵を拾うが、メテイヤがそれを寄越せと云い、ケニヤはメテイヤに黄金の卵を渡す。若者達は「気前よく寛大であり、王になるのがふさわしい」のはケニヤと云うが、老人達は「王とは与える者ではなく、要求し、取る者だ」と云って反対し、ケニヤ支持者は斬首され、メテイヤが王に即位する。王になったメテイヤはケニヤを王の右手一番目に坐らせることに決める。だが、メテイヤは貴族の讒言でケニヤを恨むようになり、そして、ケニヤを鞭ち、遂に殺してしまう。メテイヤは酒色に溺れ、廉恥心なぞどこ吹く風で居る、婦人や乙女や若者は集って呪術によって少年ケニヤを召喚する、メテイヤはまたぞろ少年を殺し、繰り返すこと幾度、遂にメテイヤは心斗りでなくその身をも虎へと化する……。

 獣と云えばデリダか岩野泡鳴かって感じですが、虎と云えばコッパードの「銀色のサーカス」か中島敦山月記』、ボルヘスの詩のいくつか、そして郡虎彦(関係ないけど)が直ぐに思い出されることだろう。ここでの虎の象徴性は単なる暴力性だけでなく、英雄や王の持つ暴力性や残虐性であって、一方では力強さや偉大さを表している。

 

 ソログープの邦訳文献は……そのうち追記します。

 

ニコライ・ステパノヴィチ・グミリョーフ「ストラディヴァリウスのヴァイオリン」

 さて六作目はグミリョーフの「ストラディヴァリウスのヴァイオリン」。芸術家の狂気の極点を描いた作品で、音楽と魔術と云う点では「勝ち誇る愛の歌」と共通する。それにしても、幻想と夢という結び付きは随分と強力なものだと改めて感じる。タブッキの『夢のなかの夢』なんかはその一つの到達点、というか曲がり角、かもしれない。

 老音楽家パオロ・ベリチーニはストラディヴァリウスの一つを所有している。かれの演奏は狂気じみているというので非難を受けることさえあるが、独奏曲の完成が訪れずに煩悶とする。例のヴァイオリンを放り出し、やきもきしたまま眠りにつくと、夢の中で背が低く体の柔らかい余所者と出会う、余所者は「闇の支配者」「罪の父」「美の父」「美しいもの全てを愛する者」などと名乗る、さらにカインにとっての芸術の教師だと云い、オルフェウスを語り、ゴルギアスと対話しただとか、オーストラリアではブーメランを考案したのだとかと云う。要するに悪魔なのだが、ここでは芸術が、狩猟が、修辞学が、建築が、制作行為が悪魔のものとされているわけだ。ツルゲーネフの「勝ち誇る愛の歌」でも同様の観方があった。そして、悪魔はパオロの所有するストラディヴァリウスは不完全だと述べ、ヴァイオリンの原型、つまりプラトン風に云えばヴァイオリンのイデアを取り出して演奏してみせる。パオロはその楽音に全てを理解し、心は四分五裂して目が覚める。それから、かれは自らのヴァイオリンを踏みつけ破壊する。駆け付けた弟子はかれを「理性を失った人々の避難所」に連れて行く。シャランタンであり、松沢病院である。大家は「自分の手に血が付いているように思われ」、壁に手を擦り付け、飲用水を全て手に掛けた。五日して、かれは渇えて死んでいた。

 修飾の多い華美な文章で綴られているのだが、ストラディヴァリが悪魔の契約を無視してキリストに祈りを捧げ続けて、悪魔のみに許された完全な楽器を作りかけていたのを悪魔は恐れていたというのは、グミリョーフなりに芸術と狂気の関係に一つの解答を示していると云えるのではないか。浅はかなことは言えないが。

 グミリョーフは過去に詩の邦訳が幾つか出ているらしい。

 

アレクサンドル・ステパノヴィチ・グリーン「魔法の不名誉」

 この作品も書き出しが素晴らしい、曰く「この街は、それぞれが一つもしくは幾つかの、極めて不思議な物語を背負っている人々で一杯である」。真似したくなる。そして、独自に創案した地名を用いるなどの手法も冴えている。

 さあれ、そんな物語を背負った人々の一人、ポーター(要するに荷物持ち)を商う老人がこの作品の主人公となる。かれは女たらしで、最近結婚した癖に若い娘に鳥籠を届けるように依頼され、その娘に惚れこんでしまう。家に上がると、空になった鳥籠がたくさんあるのに気付く。娘は鳥を買っては放していると云う。ポーターは日に三度、鳥を買って来るように告げられる。指定された店に行き、鳥を買うこと五日、女の家のベッドに寝ていたかれは目が覚めて、娘が居ないのに気付いて、隣の部屋を覗く。そこでは、半裸の娘が鳥を暖炉に投げ込んでは高笑いしていた。大慌てで逃げ出したポーターは、ペットショップに注意しに行くが、店は消えていた、そして、あの娘の住んでいたはずの部屋は空き部屋だった。男は我が家へ帰ろうとするが、なんと既に三年の月日が流れていて、家は他の人が借りていて、妻は病院で亡くなっていた。

 最後の〈私〉の報告には、狂気を体験した老ポーターの哀愁を感じさせるものがあり、この本の中で、ぼくは一番好きな場面かもしれない。作者のグリーン(1880~1932)だが、ポーランド系ロシア人としてロシア帝国のヴャトカ県スロヴォツコイ市に生まれ、二十代には革命運動に参加して逮捕されたりしている。それから偽名で短篇を発表し始めたとのこと。作家としては不遇で、「時代に合わない」との理由から旧作の再販が禁じられ、新作は年間一冊と制限される。当時既にクリミアに移住していたそうだが、貧窮のうちに胃癌で亡くなったという。

 グリーンの作品は、本書と同じくアルトアーツから『灰色の自動車 A.グリーン短編集』西周成=訳、アルトアーツ、2016年)が出ている。同書には電子書籍版があるほか、「緑のランプ」と「髭の豚の水溜り」の電子書籍版も出されている。

(追記)8月10日に『鼠捕り業者―A.グリーン短編集Ⅱ』が出るそうです(引き籠り過ぎて気付かなかった)。

 

 

 何の考えも無しに書き始めたらだらだらと締まりの無い文章になってしまったが、最近身に不幸が続いており今一つ文章を書こうと云う気力も湧かないので御容赦頂きたい。

 秋にはカルヴィーノの『冬の夜ひとりの旅人が』が白水Uブックスから出るし、次回こそカルヴィーノを取り上げようかとも惟うのだけど、どうせならイタリア語でも勉強しようとか、まだ読んでいない自伝とか未邦訳の作品とか英訳でもいいから目を通さねばとか、ジョヴァンニ・ヴェルガチェーザレパヴェーゼくらいは読破しなくてはとか考えてしまって、結局何もしていないと云う。中途半端な完璧主義者、こんなところで撞着語法が。

 何にしても、今回取り上げた様な出版社に依らない本の頒布と云うのは尊敬致します。辺境文学を出版して下さる良心有る出版社もそうですが。と云うわけで、この度発見されたクプリーンの『アレーシャ』(西尾美智子=訳、2013年)の調査結果もいずれ纏めたいところ。明日にでも図書館行けば済むけど……w

 

 

 

 

 クプリーン作品の邦訳についてちょっと検索してみたところ次の様な結果を得られた(思ってたよりも多い……)。邪魔臭いのでこうして文末に持って来たから暇な人はスクロールとかしてみたら好いと思う。60年代辺りの全集の乱発はこうしてリストを見ているだけでも複雑な気持ちになること請け合いだ。また、出来るだけ版元のホームページやデジタルライブラリーのリンクを埋め込んでおいたので参考までに。

 

「閑人」『露西亜現代代表的作家六人集』(昇曙夢=訳、易風社、1910年)所収。

「決闘」「生活の河」『近代西洋文芸叢書』第1冊(昇曙夢=訳、博文館、1912年)所収。

「囈言」『毒の園 露国新作家集』(昇曙夢=訳、新潮社、1912年)所収。

「決闘」(昇曙夢=訳)『自然と愛 名作美文』(自由叢書第7巻:近代文学会=編、耕山堂、1915年)所収。

『愛の奇蹟』三浦関造=訳、山田書店、1916年)

「暴虐 或る実話」『露国十六文豪集』(世界短篇傑作叢書第1巻:後藤利夫=訳、新潮社、1919年)所収。

『魔窟』(松永信成=訳、天佑社、1920年

「モロフ」「船暈」「イズムルード」「幼年学校生徒」『クープリン傑作集』(栗林貞一=訳、昇曙夢=校閲、天佑社、1920年)所収。

「生活の河」「泥沼」「閑人」「囈言」『クープリン・アルツィバアセフ傑作集』(露西亞現代文豪傑作集第2編:昇曙夢=訳、大倉書店、1920年)所収。

『労農露国の真相』(エポック叢書第3編:世界思潮研究会=訳、世界思潮研究会、1921年)

「孤独」『露西亜二十一人集』(菊池仁康=訳、善文社、1922年)所収。

『ヤーマ』(松永信成=訳、天佑社、1923年) ※『魔窟』の改訳?

「「道徳的白痴」レーニン」『レーニン評伝』(茂森唯士、表現社1924年)後篇68頁以降。

「麻疹」(米川正夫=訳)『世界短篇小説大系 露西亜篇』下巻(近代社=編、近代社、1925年)

「ヤーマ―魔窟」『世界文芸全集』第36編(梅田寛=訳、新潮社、1926年)所収。

「或中尉の手記」『近代文芸選集』第7編(葉河憲吉=訳、健文社、1927年)所収。

「幻覚」(蔵原惟人=訳)『近代短篇小説集』(世界文学全集第36巻:新潮社=編、新潮社、1929年)所収。

「決闘」「ヤーマ」『世界文学全集』第2期第14巻(昇曙夢=訳、新潮社、1931年)所収。

「幻覚」『五月の夜 ロシヤ短篇集』(改造文庫第2部第241篇:蔵原惟人=訳、改造社、1934年)所収。

「Allez!」(米川正夫)『露西亜短篇集』(世界短篇傑作全集第4巻:河出書房、1936年)所収。

『決闘』(昇曙夢=訳、新潮文庫、1938年)

『決闘』上下巻(改造文庫第2部第370-371篇:梅田寛=訳、改造社、1939年)

『魔窟』(昇曙夢=訳、大虚堂書房、1946年)

「象の病気見舞」「犬の幸福」『犬の幸福 動物物語』(米川正夫=訳、河出書房、1946年)所収。

『白いむく犬』(和久利誓一、八尾直三郎=共訳、新教育事業会、1950年)

「生活の河」「泥沼」「閑人」「幻覚」『生活の河 他』(創元文庫B第16:昇曙夢=訳、創元社、1952年)

『ヤーマ 魔窟』(創元文庫B第26-27:昇曙夢=訳、創元社、1952年)

『決闘』上下巻(創元文庫B第28-29:昇曙夢=訳、創元社、1952年)

「犬の幸福」「ぞうの病気見まい」(米川正夫=訳)『世界少年少女文学全集19 ロシア篇2』(創元社、1954年)所収。

『白いむく犬』(絵本)(世界名作童話6巻:和久利誓一=訳、ながいきよし=絵、同和春秋社、1956年)

『野性の誘惑 オレーシャ』(河出新書:和久利誓一=訳、河出書房、1956年)

「生活の河」(昇曙夢=訳)『ロシア文学全集』第11巻(修道社、1957年)所収。

「ぞう」(中村融=訳)『少年少女世界文学全集31 ロシア編2』(講談社、1960年)所収。

チェーホフの思い出」(柳富子=訳)『チェーホフの思い出』(池田健太郎=編、中央公論社、1960年)所収。

「レーノチカ」(一条正美=訳)『ロシア短篇名作集』(金子幸彦=編、学生社、1961年)所収

「ルイブニコフ二等大尉」(和久利誓一=訳)『世界文学100選』第3巻(サマセット・モーム=編、河出書房新社、1961年)所収、後『世界100物語((ロシアの光と影)』第4巻(1997年)に改題。

「犬の幸福」「ぞうの病気見まい」(米川正夫=訳)『世界少年少女文学全集18 ロシア編2』(河出書房新社、1962年)所収。

「Allez!」(米川正夫=訳)『世界短篇文学全集』第12巻(奥野信太郎=編、集英社、1963年)所収。

「子いぬのジャック」(奈街三郎=訳)『幼児の喜ぶお話の本 5−6才』(大日本図書、1963年)所収。

「生活の河」(昇曙夢=訳)『ロシア・ソビエト文学全集』第24巻(平凡社、1964年)所収。

「エメラルド」(北垣信行=訳)『世界文学大系』第93巻(近代小説集第3巻:筑摩書房、1965年)

「生活の河」(昇曙夢=訳)『ロシア文学全集 決定版』第29巻(日本ブッククラブ、1971年)所収。

「さあ、やれ」(米川正夫=訳)『ロシア短編22』(現代の世界文学:集英社、1971年)所収、後『ロシア短編24』(1987年)に改編。

「液体太陽」(深見弾=訳)(創元SF文庫、1979年)所収。

「車両長」(田辺佐保子=訳)『ロシアのクリスマス物語』群像社、1997年)所収。同書にはCDブックも有。

『ルイブニコフ二等大尉 クプリーン短篇集』群像社ライブラリー第24巻:紙谷直機=訳、群像社、2010年)

「エゾヤマドリ狩り」「ガンブリヌス」「二等大尉ルイブニコフ」「アレーシャ」『アレーシャ』(西尾美智子=訳、2013年)所収。個人出版? 詳細キボンヌ(死語)。国会図書館リンク

 

 

 また、以下参考資料。

「文豪クープリン君」露西亜の戦線より』(大庭柯公、冨山房、1915年)86頁以降。

「クープリン伝及び肖像(クープリンの芸術思想/芸術家としてのクープリン/クープリンの代表的作品)」『露国現代の思潮及文学』(昇曙夢、新潮社、1915年)216頁以降。

「クープリン君」『露西亜に遊びて』(大庭柯公、大阪屋号書店、1917年)299頁以降。

「クープリンの論難」『労農文化の中心人物ルナチャールスキー』(世界パンフレット通信45:尾瀬敬止、世界思潮研究会、1921年)13頁以降。

『ソヴエート文学の十年』(「マルクス主義の旗の下に」文庫11:コーガン=著、山内封介=訳、白揚社、1930年)